中国de音楽4

中国在住の日本人音楽家による、日々の日記です。

伝統楽器は奥深い

 土曜日、上海は曇り、気温は 34度。曇っているが暑い一日。

 朝から例の作曲業務を必死に行う。嗚呼…時間が全然無い! 先週〜今週にかけて親戚の小学生達が遊びに来ていたので作業が非常に遅れているのだ。何とか今日明日でカタをつけなきゃ。
 そんなこんなでギリギリの時間までMacの前でウンウン唸って、正午を回った頃にザッとシャワーを浴びて軽くメシをカッ込み、慌てて荷物を纏めてシェアサイクルに飛び乗って駅まで走る。そして地下鉄 10号線で『伊犁路』で降りて高島屋へ。 本日も毎週土曜日恒例の高島屋ミニライブのPA業務が有るのだ。

 倉庫の前で takaさんと落ち合って機材を南東エントランスまで運んでセッティング。サクっと仕込んで音が出て一安心。
 関係無いが本日 takaさんが買ってきてくれたこのお茶、全然甘くなくてスッキリして美味しかった。夏場はガブガブ飲むからこのくらい薄味の方が良い。
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 そして、リハも順調に終わり、アレよアレよという間に本番である。本日の出演は二胡奏者の潘丽さん。彼女とは何度も一緒に仕事してるので『勝手知ったる?』じゃないが、彼女の音の好みも良く分かってるので非常に仕事しやすい。
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 相変わらずトリハダが立つほど素晴らしい演奏だった。中国の伝統楽器は集音が難しい楽器が多いのだが、幸運にもワタクシはコッチで色々なアーティストの担当をさせてもらったので一通り対応できる様になったw
 他のアーティストならば、二胡は DPA4099にユニバーサルアダプタを取り付けてボディにマジックテープで巻き付けて使うのだが、潘丽さんはあのベルトを嫌がるので、ほぼ『潘丽専用!?』と言っても過言では無い、改造クリップの SHURE CVLピンマイクを BLXワイヤレスで飛ばしている。CVLは『吹かれ』に非常に弱いのでポップガード無しでは使い物にならないのだが、二胡は空気が一切出ないのでダイレクト装着で全く問題無い。安っすいマイクで指向性も甘いが、ハイエンドが美しいので EQ次第ではカナリ使えるのだ。
 二胡はボディ裏のサウンドホールから直で音を拾うとキンキンしまくるので、EQで 2K~4K辺りを大胆に削るのは鉄則だが、彼女の楽器は中音域が非常に張るので『鼻づまり』っぽい音になりがちゆえ、400〜500Hz辺りも緩やかなカーブで落とし、逆にもっと下の 100〜200Hzくらいをチョット突くと色気が出る。(モチロン下がハウり出さない様に 80Hz以下はローカットを入れる)
 そして以前にも何度か書いたが、二胡PAの『キモ』はコンプである。二胡という楽器の難しさは高音域になるとガクッと極端に『音量』が落ちる事だ。他の多くの楽器と異なり、一番盛り上がる『高音部』が一番引っ込む…という特性ゆえ、毎回フェーダーから手が離せず『手コンプ』にて突いて対応するのだが、最近このサンクラの卓の内蔵コンプの『クセ』が大分分かってきたので、圧縮比とリリースタイムとニーの角度でカナリ作り込める様になってきた。中低域が Fatになりすぎないポイントが有るので、その状態で、スレッショルドを結構低めに設定して、カナリ手前からコンプがユルく掛かってる状態にするのがキモ。ソフトニーにして音量カーブと減衰カーブを合わせる感じ? …って音響関係者しかわからんネタですなw

 今日は道行くお客様殆ど全員が足を止めて観て下さった。さすが!やっぱり良い演奏はヒトを惹き付ける!
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 終演後、今日初めて来て下さったお客様から声をかけられ「大きなコンサートホールで聴いてるみたいで音がとても良くて感動しました!このイベント毎週やってるんですか?」とか何とか!? 非常に有りがたい事を言ってくれたので嬉しくなった。 そうなのだ、実はリバーブも結構コダワっているのだよw ココはエントランスホールなので物理的な初期反射が強く、しかも400くらいの響きが凄くイビツに出っ張るので、リバーブは結構低域をピンポイントでカットして基本ハイ成分のみをプラスする感じで天然のアーリーリフレクションと混ぜて響く様に『演出』しているのだ。MRX515のツイーターは異形ホーンゆえハイの指向性が広いから Lexiconと相性が良いしね。いやぁ…お客さんがこういう部分に気付いてくれるのはとても嬉しい。
 出演者に対して「感動しました!」とか言いに来るならまだしも、一般のお客さんが、わざわざ音響スタッフにこんな事を言いに来るなんてフツーじゃ有り得ないのだが、ココ高島屋の現場では最近結構増えているのだ。機材の写真を撮っていくオジサンも結構多いし、iPadで調整してると、気付けば後ろから数人が覗き込んでいたりして驚く。

 中国では、ちょっと前までは『音が出てりゃ音質なんか適当で良い』という現場が非常に多かった(今でも結構多い)のだが、最近は明らかに『お客様側』の耳が肥えてきてるのを肌で感じている。 特にココ数年は、ちゃんと良い物とそうでないものを、お客様が自分の耳でシッカリ判断できる様になってきたのは事実だ。特に新型肺炎の後はネットの生放送が絶対的に増えたのだが、その弾幕をみていても、音質やら画質やらに結構『鋭い』ツッコミを入れてるコメントが目に付く様になったしね。

 …という事は、だ。 これから良い意味での『競争』が始まるワケだ。競争なき所に市場原理は成り立たないからね。こうしてどんどん技術の底上げがされてクオリティが上がって来ると、ようやく我々の出番が訪れる…ってワケだなw 色々な意味で『やっと』価値が評価される(価格差の意味を理解して貰える)時代が来そうな予感がする。
 中国の現場では、音響はそれこそ「鳴ってりゃ良い」って感じで、末端の末端に近く、現地業者は非常に安い値段で請けているので、世界中のエンジニアが「こんな安くちゃやってらんねーよ!現地業者と比べんなよ!」って感じで、このマーケットを諦めて早々に撤退しているので、今だからこそ、のチャンス到来カモしれない。逆価格破壊?じゃないが、本来の世界的な適正価格まで吊り上げて行けると思う。

 特に中国伝統楽器は、ここの国民にとっては皆子供の頃から『馴染み』が有るので、良く音を知ってるし、それが PAを通すと『へっぽこ』になる…というのは実に分かりやすく記憶の中の音と『比較』ができるので、我々の『コダワリ』(技術力)がまっすぐ評価されるのかもしれない。音響が非常に難しい楽器だからこそ差が出やすい(腕の見せ所だ)しね。
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