中国de音楽4

中国在住の日本人音楽家による、日々の日記です。

プライベートリサイタル

 火曜日、上海は曇り時々雨。最近涼しかったのに、気温は34度とまた暑くなった。
 本日はピアニスト『仲道郁代』さんのプライベートコンサート@RIVIERAの本番日である。場所は浦东の『RIVIERA松鹤楼』3Fのテント内にこの日の為に作った特設ステージである。ワタクシは昨日のウチに有る程度音響を作り込んでいたので、お昼頃に現場入り。どうやら調律師さんは朝一からずっと調整し続けていたらしい。いやぁ日本人の真面目さには頭が下がる。
 到着してみたら部屋の中があまりに暑くて驚いた。天井がテント地で、4隅がガラス張りなので直射日光が当たるとビニールハウスの原理で温度が上がってしまうのかもしれない。とりあえず全ての機材に火を入れて一通り確認。一応全部マトモに鳴ったが何よりこの暑さが心配だ。特にXR18はタダでさえ結構発熱する機材なので熱暴走が心配。

 会場の全てのエアコンをフルにしても追いつかないので、急遽扇風機やら冷風機やらを導入。何とかリハーサル開始時間までに有る程度温度を下げたい所。

 リハ開始前の少しの時間に調律師さんに時間を頂いて最終の音響調整を行った。何より『プレイヤーの演奏環境』が本番演奏の善し悪しを決めるといっても過言では無いので、とにかくモニターが非常に重要なのだ。こればっかりは自分が演奏者と全く同じポジション(ピアノの前)に座って音を出しながら確かめるしか無い。特にクラシックのプロの方は耳が非常に良いので繊細な違いを聴き分けてしまうから一切ごまかしが効かない。つまり非常にハードルが高いのだ。ワタクシは『良い音』ではなく『自然な演奏感』が最も重要だと思っているので、息を止めて一通り自分で弾きながら確認する。 1.全ての88鍵盤で音が出っ張ったり引っ込んだりしている部分が無いか、 2.リバーブの深さは適切か(電気的すぎないか) 3.PANの感じは自然か(妙に左右に離れすぎていないか) 4.音色はピアノ本来が持っている特性に準じているか(妙に明るくなりすぎていないか)特に演奏者のポジションで聴く楽器の音は、楽器から離れて聴いている音と(真正面で聴いているお客様と)聴こえ方が全く違うので、モニタはココが一番注意が必要だったりする。 5.コードを弾いた時に妙な倍音が発生したりリバーブに引っかかったりしないか(最近のコンボリュージョンリバーブはサンプリングなので変な周波数にピークが発生したりするからね) 等々。何度もミュートして生音と比べながら細かく調整を行う。すると左側 ファ(F2)の音がココだけピンポイントでモワっと膨らむ事に気付いた。左手単体で1音だけ弾くと気付かないのだが、右手で Fメジャー7 を同時に弾くと顕著に低音だけモワっと残る。リバーブとの兼ね合いも有りそうだが、57のみにするとやや薄れるので、コンデンサーマイクの特性と部屋鳴りのピークの関係と思われる。故にチャンネルEQでコンデンサーのココだけ少し削ったら大分自然になった。いやぁ…危ない危ない。やはり恥ずかしがらずに実際に自分で弾くべきだな。
 リハ前の緊張の一瞬。既にお部屋は完全に仕上がっている。

 そして 14時半、仲道さんがいらっしゃってピアノの音を確認する。緊張の一瞬である。まずはPA無しで生ピアノの音と調律の感じを確認される。そして「ではPAさんお願いします」の一声で、手に汗握りながらミュートグループを解除。暫くの間、難しい顔をされながら 2曲ほど続けて演奏される。コッチは心臓バクバクである。
 ようやく手を止めて開口一番「外から回り込む残響感は素敵ですね、今モニターは鳴ってますか?」と仰ったので「鳴っています」と答えると「もう少しだけ返しを上げて頂けますか?」と仰ったので +3dBほど突いてみた(上げすぎと思われる方も多いかと思うが、これくらい差をつけないとブラインドでは『上がった感』が出ないからワタクシはいつもまずこれくらい差をつけて後から再調整をする様にしている)。そしてそこから 3~4曲ほど続けて演奏される。心なしか先ほど演奏中に見せていた厳しい表情が緩んだ気がした(…が気のせいかもしれない)
 次に手を止めた際、仲道さんは鍵盤に手を置いたままワタクシの目を真っ直ぐ見る。そして 1秒の沈黙。『うわ!やっべ〜(汗)ヲレ何かヤラカしたか!?!?』と本気で焦りまくる。。。。
 するとニッコリと笑って「凄く自然で弾きやすいです。お上手ですね」と仰るじゃないか!うわ〜マジで超うれしいんですけど!!!!鳥肌が立った。 お世辞でも、音響屋にとってこんなに嬉しい言葉は無い。調律師さんから「仲道さんは音にはとても厳しいお方なので簡単に褒めてくれないですよ」と聞いていたので、うれしさ倍増だ。いやぁ…生きてて良かった(笑)
 そして客入れ〜本番待ち。先ほどのリハでの一幕からワタクシの緊張はほぐれ、おちゃらける余裕すら出てきた。壁の隙間に挟まれ、カーテン越しに隣の部屋まで出っ張った変則セッティング(写真撮ってる側(手前)が会場で、後ろは隣の部屋である)

 外ではウェルカムパーティ&Jazzバンドが演奏し始めた。

 そして本番開始。今日は本番中は撮影禁止なので、本番前に緊張している『働くおじさん』の写真のみ。

 最近は iPadでミキサーをリモートコントロールするのだが、そんな事を知らないヒトの方が多いので、iPad持って突っ立ってると何をやってるヒトかさっぱり分からないよね(苦笑)
 本番の演奏も実に素晴らしかった。やはり日本で活躍されるプロピアニストの演奏は全然違う。表現力の幅が凄いのだ。実に繊細なピアニッシモから壮大で暴力的ですらあるフォルテシモまで、同じ楽器の音とは思えない程の表現力だった。いやぁ…仕事とは言え良い演奏を聴けて嬉しい。
 そして終了後は怒濤のバラしである。お客様が全員が会食会場に移動したのを横目で確認し、そこから一気にバラす。今日はタカさんのみならずアシスタントも来てくれたので速い速い!他のお客様や舞台&照明組がエレベーターを使う前にサクっと地下駐車場まで下ろしてしまう。こういう時は逃げ足が速いほうが勝つね(笑)
 予定よりも1時間も早く上がれた。すげー!やれば出来るじゃん!ヲレら。
 昨日の仕込みがグダグダで一時はホントどうなるかと思ったが、何とか無事に終了できて良かった。ワタクシ的には、あの(お世辞かもしれなけど)真っ直ぐ目をみて仰って下さった褒め言葉だけで何にも代えがたい財産である。実に気分が良い。
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