中国de音楽4

中国在住の日本人音楽家による、日々の日記です。

自然体が難しい

 土曜日、上海は晴れ、気温は 31度。晴れているが風が心地よくてそれほど暑く感じない。サスガ 9月、どんどん涼しくなるね。

 例によって朝から作曲業務を昼過ぎまで。そして午後 1時半に家を出て 10号線の伊犁路にある上海高島屋に向かった。本日も毎週土曜日恒例のミニライブの PA業務が有るのだ。
 takaさんと倉庫前で落ち合って機材を 1Fまで下ろしてサクっとセッティング。長年やってるので、何も言わなくても完全にセッティングの業務分担が出来てて直ぐに音が出る。
 本日もワタクシの Soundcraft Ui24Rがメイン卓なので物理フェーダーレスである。
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 本日の出演は以前にも出てくれた中国人ボーカリスト李悦さんとキーボーディスト金鹤翔さんのデュオ。二人とも沈阳音乐学院卒業の素晴らしいアーティストである。
 前回担当させてもらった際にカナリ感動したのだが、今回もリハーサルから結構トリハダものだった。ヘッドフォンで聴いてると、ほんと良い声だし感情表現が豊かで心に驚く。
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 なにより彼女はマイキングが上手い。決して声量が有る方では無いとは思うのだが、ほぼベタ付きで、口からグリルまで 2mmくらいしか離れてないので PA的にはめっちゃ音が作りやすい。歌ってない時のマイクの避け方も秀逸で絶対にモニタに向けないから全然ハウらない。若いのに相当場数を踏んでる子だと思われる。
 明らかに彼女のキーを逸脱しているであろう低い音域も、しっかりマイクにくっついて真正面に向かって自信を持って堂々と腹から声を出してくれるから、こちらはフェーダーを煽れるし、煽っても全くハウらないからガンガンに音が前に出る。ここに出演する全てのボーカリストに彼女のマイキングを見習って貰いたいほどだ。

 リハの最中に、やはり zhi,chi,qi,shi等の歯擦音が気になり始めた。マイクにくっついてるから余計に強調されて聞こえるのだと思われる。前回担当した際に『ディエッサー』が無くて非常に悔しい思いをしたのだが、その後、色々と調べてみたら、この Ui24Rにも実はディエッサー機能が有った事に気付き、本日はこのディエッサーを駆使して音を作り込んでみた。
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 Ui24Rのディエッサーは EQエリアに有るのだ。機能としてはバンドパスコンプなので、コンプのエリアばかり探していて気付かなかったが、中心周波数とQカーブのみならず、アタックやリリースもコントロールできるので、結構凝った設定が出来て非常に助かった。彼女は 8KHzよりほんのすこし上を中心にしてディエッシング処理をすると、痛い周波数が綺麗に取れて自然な減衰。そしてコンプで落としたエリアの倍音成分が有る 16KHzあたりをすこし持ち上げてあげると、ぐっと艶っぽくなって、より素敵な魅力的な声になった。うーむ我ながら良い音で惚れ惚れ!(自画自賛)

 そしていよいよ本番である。
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 始まるとお客さんがどんどん増える。やはり良い演奏は人を惹きつけるね。
 ヤバイこの子やっぱ上手いわ。ピッチも正確だし、ほんとに良い声で惚れ惚れする。
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 さっきから、ついついヴォーカルの李さんの事ばかり書いてしまったが、実はこのキーボーディストの金さんも凄いプレイヤーで、何がすごいってダイナミクスの使い方である。All-in-one シンセの軽い鍵盤とは思えないほどの音量表現力で、モニタのヘッドフォンで聴いてるとホントにグランドピアノで弾いている様な音がするのだ。多分この楽器のベロシティーカーブを知り尽くしていて、それに合わせて力の強弱を調整しているのだと思われる。また自動バッキングも凝っていて、Jazz等は ドラムの Fillを変なタイミングで複雑に入れるから『より』Jazzっぽいフィーリングが出るし、ソロのセンスもカナリ良い。決してスケールアウトしないし、明らかにコード理論を熟知していて相当練習を積んだ人の演奏(なによりこの音量表現は一朝一夕にできる物じゃない)である。こんなに若いのに驚きだ。
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 いやぁ…こういう素晴らしいアーティストの PAをやらせて貰えると、ほんと刺激をたくさん受けて嬉しい。

 休憩時間に軽く話をしたのだが、二人とも凄く謙虚で驚いた。やっぱり上手い人ほど『謙虚』なんだよね。。。間違いない。 一番羨ましく感じたのは、彼らは常に『自然体』である事。まっすぐ目をみて淀みなく喋る話し方は、ステージ上でも全く変わらない。こーんなに若いのにどんだけ経験積んでるんだろ? 普通の人は、お客さんを前にすると、ああいう立ち居振る舞いは中々できないよ。人前に出る時は、人って絶対『普段より良く見せたい』って思う願望が根底に有って必ず顔を覗かせて来るから、ステージ上で普段やらない事をして失敗したり、普段より格好良くみせようとして却って不自然になったりするからね。でもこの二人はそんな素振りは一切なくて、こーんな小さい営業ステージでも全く手を抜かず、ホントに心の底から音楽を楽しんでる雰囲気がとても良かった。

 終了後、Tシャツと低い靴に着替えて戻ってきたら単なるフツーの女子大生にしか見えなかった。

 その姿を見て、なんだろう?うまく言えないがチョット凹んでしまった。ワタクシも音楽家の端くれなので、同じ音楽家としてあーんな凄い事をサラっとやられちゃうと凹むのだ。自分はイツでも常に背伸びしまくって、突っ張らかって必死で奏でてるよなぁ…ってね。ワタクシは何と虚飾に汚れた音を出しているんだろう…ダメダメだわ。

 明日のライブは『自分らしく』演ってみようかな。ダメなオッさんはダメなオッさんのまま! 一切カッコ付けずにね!(笑)
 ワタクシは明日 MAO Livehouse Shanghaiに出演します。上海是在住でおヒマな方は是非っ!
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