中国de音楽4

中国在住の日本人音楽家による、日々の日記です。

中国製フライング・トゥールビヨンの魅力

 土曜日、広州は曇り時々晴れ、気温は 33度。 久々に雨が降らなかった一日。 怒涛の雨フェスが終わったのかな?

 朝 5時に自然起床。外は真っ暗。 身体はベッドに吸い付いたまま目だけ開けて、暫し静かにベッドと天井との隙間にある時空をボーッと眺める。 思えば遠くに来たものだ。
 「自分はいったい何処に向かっているのだろう?」…といった思考がフト頭をよぎったが、「あ!これロクな結論に達しない奴だ!」と直ぐに気付いて頭を振ってむっくりとベッドに起き上がった。

 とりあえずコーヒー片手に窓際に立って空け行く広州のパッとしない空を眺めながら、頭をカラッポにしてボンヤリと過ごす。 最近夜明けが徐々に遅くなってきた気がする。23年の夏もスッカリ終わっちゃいましたね。嗚呼…上海に帰りたいなぁ。単身赴任はツマラン。

 午前中はフツーに在宅勤務。今週会社で終わらなかった残務を粛々とこなしていたら、10時半くらいにピンポンが鳴って、なにやら『玉手箱』が届いた。

 むむむ? これはもしや!?

 木曜の昼休みにポチッた商品がもう届いたのだ。おおおおお!思わず狂喜乱舞したのは言うまでもない。うっきゃ~!ちょ~嬉Pぢゃないか!!!
 梱包材でガチガチに固められていたが、せっかくなので全部解いて箱に戻して撮ってみた。じゃーん!

 ワタクシ、人生『初』購入のトゥールビヨン機構を搭載した腕時計である。しかもブリッジステーが無い『フライング』タイプのトゥールビヨンである(嬉)

 機械時計に興味のない諸兄も多いと思うので、今日は簡単にトゥールビヨンの説明をしようかな。
 通常の機械時計の仕組みは、ゼンマイが解ける力を利用して、テンプ(振り子)が一秒間に 6回~ 8回ほど左右に振って減速をしつつ等速を維持して時を刻んでいる。 しかし、ご周知の通り地球には『重力』というものがまんべんなく存在するので、置時計ならまだしもこうした腕時計や懐中時計等、移動可能な時計は、このテンプがどうしても重力の影響を受けてしまうため、置く角度によって精度が変わってしまうのだよ。つまりある一定の角度(例えば 12時を真上にした状態)で精度の調整をしても、角度を変えてしまうと微妙な誤差が出てしまうワケさ。これは『姿勢差』と言われ、世の中の全ての機械時計が宿命として持っている誤差なのだよ。

 そこで1800年代にブレゲさんが考案したのが『地球上に居る以上、絶対に重力の影響を受けてしまうなら、どっちを向いてても常に均等に重力が掛かり続ける様にすりゃ良いんでね?』という事に気付いて『このテンプ(振り子)自体を一定の間隔で 360度回転させちゃえば良いじゃん!』というアイデアを考え出したワケさ。頭いいよね。

 しかし理論上はシンプルでも、実際に作るのは『異常に難しい』という事が判明して、特許を取ってから製品化するまで数十年かかったそうな。
 で、最終的にコレを実現するために、等速化するための部品類(テンプ、ガンギ車、エスケープメント一式)を『キャリッジ』というブロックとして一体化してこのキャリッジ自体を回転させてしまう事によって実現したのが『トゥールビヨン』と呼ばれる複雑機構である。

 そんなワケで機械時計の世界では未だに『三大複雑機構』と呼ばれていて、現代でも組み立てるのに異常に手間がかかるため価格も非常に高く(ほぼ 3桁万円以上)一部の高級時計にしか搭載されていないのだよ。

 で、腕時計 1本に 100万円以上も出せない庶民なワタクシとしては(機械構造的にはメッチャ興味があっても)こんなものは一生手にすることができないと諦めていたワケさ。

 と・こ・ろ・が!!! 驚くべきは昨今の中国の技術力の高さですよ!!!

 中国の『海鸥(SEA-GULL)』という時計メーカーは、カナリ前から独自の機械式ムーブメント開発に力を入れていて、特にココ数年は富裕層が増えて来た事も相まって高級機械式時計の需要が高まった事もあり、本格的なトゥールビヨンを安価で作る事に成功したのだよ。いくつかの偏心キャリッジを使ったモデルを結構安く出していたので前々から気になっていたのだが、とは言えこのメーカーは『世界に誇れる中国製』みたいな部分までコダワってる様で、海鸥ブランドとして出している時計は、やはり高価で買えないワケさ(泣)

 しかし、この会社の良い所は、スイスの ETA(元バルジュー)社と同様で、ムーブメント単体でも OEM供給をしているため、最近になって海鸥製ムーブを積んだ他社モデルが出始めたワケ(嬉)

 そんなワケで今年の春くらいから各社が色々なモデルを出し始めていて気になって結構マメに調べていたのだが、ついに先週の木曜日にコレに出会ってしまったのだよ!!! 偶然みつけて目が釘付けになり、しかも値段もカナリ安くて驚いたワケさ「こりゃ一期一会だな」と思わず条件反射的にポチったのは言うまでもない。(カミサマありがとう!)

 海鸥製のキャリパー【ST8235】を搭載しているこのモデルは、通常だと偏心キャリッジ(テンプがキャリッジの中心に無くて少しオフセットしている)が多い中、スイスの高級時計同様にド真ん中にテンプが鎮座したままキャリッジ全体が回転する機構を搭載しているだけでなく、且つ、なんと12時位置に大型のムーンフェイズ機能まで付いているのだよ(驚)うっきゃ~!
 以前からワタクシが月の満ち欠けに興味があって大型のムーンフェイズ時計を探している事はこのブログの長い読者さんならご存じと思うが、複雑機械時計の機構の一部として特殊なギヤ比を使って 29.5日で変化する月の満ち欠けまで表示するのだから、まさにワタクシの為に有る様なムーブじゃないか!(あ、ムーンフェイズ自体は結構昔からある一般的な機能ですよ)
 ちょうど昨日が新月だったので、お月様表示が隠れちゃってて残念だが、最近、何故かグレーの持ち物が増えてるのでグレーのダイヤル(文字盤)が良い感じに馴染んで素敵な感じ。

 海鸥(SEA-GULL)ブランドでは無く、サードパーティから出ているモデル故、ケースの『造り』部分に関しては殆ど全く期待していなかったのだが、手に取ってみるとダイヤルのギョシェ彫りも凝っているし、アラビア数字も印刷ではなく削り出しの金属で立体的になっていた。裏側も手巻きではあるがシースルーバックで輪列が追える様になってて、放射状に入ってるペルラージュ?っぽい削りはカナリ雑で処理が甘いものの、ねじ頭はブルーだし軸受けのルビーもしっかり見えた。ま、安いとは言え 10万は越えてるので、ある程度はソコソコ凝ってるらしい。やはりトゥールビヨンは厚さが出てしまうが、ケース径ギリギリまでメカが詰まってる感は圧巻でナニゲに素敵だったり。

 そして、肝心の精度だが、この日記を書いてる時点でまだ 1日しか経っていないので何とも言えないが、丸一日(寝てる時も含め)腕に装着して生活して、多分日差 +5~6秒くらいかな?(秒針が無いため判らないが、キャリッジが丁度 1分で 1回転するので、これを元に算出してみた) ま、クロノメーターでは無いが、近いくらいの精度は出ているっぽい。
 下の写真でいうとテンプ(交互に往復運動する金色の振り子)を支えている、青い 3つのねじで止まった Y字型のステーに囲まれた部分がキャリッジで、このステーがテンプやその下にあるガンギ車など丸ごと 1分間に 1周するのだよ。メッチャ小さいが中で機械類がフクザツな動作をしているのが見えるので、ずっと眺めててもミリやマイクロ単位のピタゴラスイッチみたいで全然飽きないw

 いやぁ…中々良い買い物をしましたよ。最近愉しい事が何もなかったので暫くはコレを愛でつつお酒が何杯でも飲めそうだw
 耐久性に関しては未知数だし、壊れたらどこに修理に出せば良いのかもサッパリわからんが、まぁ安いから初めてのトゥールビヨン機として数年愉しめれば良いかな?なんて思っている。中国製なので過度な期待はせずに『大らかな気持ち』がダイジw (でもドラム叩く時は外すの忘れない様にしなきゃね! こんだけ複雑な構造だと一瞬で壊れることウケアイwww)
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