中国de音楽4

中国在住の日本人音楽家による、日々の日記です。

周波数補正系は『指標』がだいじ

 土曜日、広州は曇り、気温は 31度。 8月も半ば過ぎだというのに、暴力的な暑さがやって来ない不思議な気候である。 去年もこんな感じだったので、ひょっとすると絶対的な温度に関しては広州より上海の方が高いかもしれない。(湿度に関しては絶対的に広州の方が上だけどね)

 朝 8時に自然起床。そのままベッドの上でダラダラするも、やはり二度寝できなかったのでそのまま起きる事にした。
 午前中は掃除洗濯で終わる。 朝 11時過ぎに上海に住む妻から「体調がメッチャ悪い」とヘルプコールが来たが、どうにもできないので『やきもき』しつつも、以前日本で買ってきた薬を飲ませて様子を見たら 30分くらいで良くなったらしい。いやぁ…単身赴任だと直ぐに飛んでいけないから困るわ…マジで。
 最近、日本の実家に住む母もイマイチ調子が悪いらしく、何だか心配事が増えるばかりである。 いやはや…正直いうと実は自分も色々精神的にヤラれて!? 弱って来てるから調子悪くて死にそうなのだが、自分がぶっ倒れるよりも家族や身内が倒れる方がよっぽど心配だ。
 ホント健康第一ですよ! みんな。

 お昼は健康を考えて!? 例によってオキニのお店からお寿司を出前。ココはちょっと高いケド安定した美味しさなので素敵である。

 さて、午後からは気を取り直して、ちょっと『キャリブレーション系のソフト』を DLして色々と実験してみる事にした。

 先日会社で『音質に関しては、基準となる再生環境(ヘッドフォンやスピーカー)が無いと、皆が勝手な感想を言うよね?』という話題になった時に、同僚が「Sonarworksのキャリブレーションソフトを全員のPC環境に導入したらどうだろう?」みたいな事を提案してくれたのだ。
 そうそう『基準』って凄く大事なんだよね。。。まぁ MAの分野ではあるけど、ほんと仰る通りで、基準となる『指標』が無いと、音質に関して誰も『とやかく』言えないのだよ。

 いま多くの同僚らが使ってる Beyerdynamicの DT990 proシリーズをワタクシも会社から支給されて暫く使っていたのだが、コレとても良いヘッドフォンなのに 8KHzくらいに恐ろしくトガったピークが有り、音量を突っ込むと、この部分だけ極端に飛び出して痛いくらいに破綻するのだよ(特にボイスの歯擦音部分ね) なので、コレを使ってミックスすると無意識にココを下げちゃうから全体的にハイ落ちしたミックスが出来ちゃうワケさ。

 ワタクシは昔から『極端にトガったハイ』が嫌いで、長時間聴いていると耳が疲れて麻痺してくるので、先月くらいから Sennheiserの HD660S2 に乗り換えたのだが、やはりゼンハイザーの方がハイが緩やかにロールオフしていて全体的に音楽的なので実に使いやすいと感じている。(自分の今までの経験に基づいて、多少は自分で補正をかけてるけどね)

 で、話を戻すと、全員の PCに Sonarworksの SoundIDを入れる提案?に関してだが、正直ワタクシはあの手のソフトに懐疑的で、究極の所『自分の耳が慣れた環境での『経験』でしか音の良し悪しは語れない』と思ってるし、何ならヘッドフォンなんて結構『個体差』が有るので『あくまで傾向に基づいた補正』しか出来ないと思うんだよね。
 …とは言え、そんな『持論』ばかり語っても意味がない(老害だ)し、とりあえずどんなものか試してみないと判らないので、Sonarworksのオフィシャルページから demo版ソフトを DLして色々実験してみる事にしたのだ。

 結論から先に言うと…。ワタクシ的には『違う』と思った。

 吊るしのテンプレ使ってヘッドフォンに設定して音を聴いてみたら、聴いた感じ補正後の音は全然『フラット』じゃなかったのだよ。。。まぁワタクシが使ってるゼンハイの HD660S2自体が比較的新しい製品なので、周波数測定に使用したサンプルの絶対数が少ない気がする。以下の図で紫色がメーカーがサンプリングした周波数特性。緑色が補正に使用した EQカーブで、ピンク色が補正後のカーブらしいのだが、、、

 聴いてみると、2.5KHz-3KHzが異常にデカくて「ギンギン」した、とても不自然な音になってしまったのだよ。
 因みに下の図は 普段ワタクシが RMEのオーディオインターフェース内で最終段で自分の耳を頼りにヘッドフォンに対してかけている EQカーブ。

 寧ろ 3KHz辺りは逆に下げてるのだよ。。。なんで逆の結果になるんだ?? 意味がワカラン。

 不審に思ってゼンハイの HPの商品ページから HD660S2の周波数特性を引っ張って来て横軸を合わせて比べてみた。上(黒いグラフ)がゼンハイのオフィシャル、下(白地に紫)が SonarworksのAppに付属している測定値である。

 えええええ! 1KHz以上が全然違うじゃん? 特に 3KHzと 5KHz辺りが『真逆』である。ヲイヲイどっちを信じたら良いんだよ?

 フツーに考えたらマイクでリアルに測定した下の方が正しい…と考えるべきだろう(メーカーは大体グロスじゃなくてネットで発表するからね) でも、ワタクシが今まで PAで培った自分の耳を信じるのなら、今回のこの HD660S2に関して言えば、ゼンハイオフィシャルの方(黒いグラフの方)が正しい気がしてならないのだよ。 だって自分の耳を頼りに作ってる EQがほぼこのオフィシャルの特性にほぼマッチしてるからね。

 もちろん Sonarworks自体はちゃんとしたメーカーだし、音響補正で名を上げてるメーカーでは有るので、決してテキトーな測定をしているとは思えない。なので新しめの機材に関しては多分サンプリングの数が少ないだけだと思う。

 因みに、もう一つ広州に持ってきている SONY MDR CD-900STも同様に試してみたが、コレは比較的良い線行ってるかな?という気がした(低域のキック周りはかなりリアルにドッシリと良い感じになったが寧ろ輪郭がボヤけるので無理して出してる感は否めない。ハイはハイで相変わらず出過ぎの傾向があるし、やはり 2K-3K辺りの扱いが雑な気がする。HD660S2ほど極端では無いが、それでもやや 2K近辺が大きめなんだよね。。。この辺ボーカル物を聴くと顕著に判る)

 で、念のため『ワタクシの耳がおかしい?極端な傾向が有る?』恐れもあるので、一応 2つのヘッドフォンの両方にメーカー推奨値で補正をかけた状態で聴き比べてみた。もしこのソフトの補正結果が正しいなら、同じ音質になる筈(全く同じじゃなくてても同傾向になる筈)だからだ。

 しかし、結果は酷いものだった。

 Sonarworks社内で同じマイク、同じ環境で測定したであろう『基準値』を元に『フラットになる様な』補正EQ値を提供している筈なのに、それぞれのパラメーター通りに設定してヘッドフォンを付け替えて聴き比べてみると、明らかに音質が違うのだよ。両方とも『フラット』と表示されてるクセに!!!!全然違うのだ。 なんじゃこりゃ? 酷い話だぜ。こんなの誰が信じられる? (誤解なき様に書いておくが、モチロン再生時の最終段に私が自分の耳を頼りに補正用に入れていた RMEの EQは両方とも切った状態で(つまりSonarworksのソフト『のみ』を通した状態で)比較している)

 そりゃ確かに片や密閉型で片やオープンエアー型なので方式は違うよ! でもそれにしたって、こんなに音質が違って良い筈が無い。 1KHz以下の中低域は両方ともカナリ近い(ほぼ同じ)だが、 1KHz以上の高域の音質の傾向が呆れるくらい全然違うのだ。とにかく HD660S2は 3Kくらいが異常にデカくてキンキンするし、CD900STは 2Kくらいが異常にデカくてカンカンするんだよ。寧ろ補正を切った方が(それぞれキャラクターは違うが)自然に感じるくらいだ。

 あーもぅ。コレだからやはり自分の耳を信じるしかないんだよ。ボタン一つで理想的な環境が出来るなんて夢物語だ。

 勿論、別にSonarworks社を貶してるワケじゃないよ! EQ部分の性能はきっと良いんだと思う。でも全ては『指標となる測定値』のサンプリングの問題なのだよ。

 因みにこの Demoバージョンは 21日間フルスペックで全ての機能を試せるらしいので、マイクを使ってスピーカー補正も試してみた。結果は以下の通り。

 この測定は『部屋鳴り』も踏まえて調整してくれるので、20カ所くらいマイクを移動して測定する…というカナリ手の込んだソフトだった(やたら時間がかかった)

 結論から言うと、これも『測定用のマイク』次第だな。。という事だ。

 今回使ったのは Sonarworks社が提供している純正の測定用マイクではなく、実験的に手元にある ROAD NT2を使ったので、補正後の音は全体的にハイ落ちした結果になった(NT2はそもそもハイが持ち上がっているマイクなので)
 しかし、先ほどのヘッドフォンの時の様なヘンテコな高域の破綻は無く、まぁこんなモンだろうな…という想定範囲だった。つまり、リアルに同じ環境で測った物に対して補正をかける分には、かなり『マトモ』だという事が判った。もしこのソフトを導入するなら、測定用のマイクとペアで購入するのが必須だろうな。

 …てなワケで、会社で全社員にこのソフトを入れてヘッドフォンを同じ様に補正する?という考え方は捨てたほうが良さそうだ。。。という結論に達したのは言うまでもない。
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