中国de音楽4

中国在住の日本人音楽家による、日々の日記です。

ヘッドフォン

 土曜日である。今日も丸一日、家から一歩も出なかった。ひたすら部屋に引き蘢って音楽三昧でモノヅクリである。こんなに長時間 ProToolsの画面を見続けたのは何年ぶりだろう? 中々楽しいがサスガにチョット疲れた(笑)

 一歩も外に出てないので故に日記ネタが無い。なので今日はいま使ってるヘッドフォンをば。言わずと知れた定番 SONY MDR-CD900STである。コレはウチの3号機だな。

 決してスゴく音が良いワケでも特別思い入れがあるワケでもないのだが、色々使った挙げ句、何故か結局ココに戻って来てしまった…という感がある。

 こ〜んな古い設計で、決して高価ではない安っぽいプラスティックのヘッドフォンが何故定番になりえたのか、使うまでは不思議で仕方なかったが、YAMAHAのモニタースピーカー NS-10Mと言い、SHUREのマイク SM-58と言い、往々にしてパッシブで構造が単純なマイクやスピーカーやヘッドフォンは安価な割に、必ず『定番になりうる理由』があると思う。

 これは全て所有して使い倒した(NS-10Mはコッチに持って来れなかったので現在日本お友人のスタジオで使ってもらっているが)経験から言える事なのだが、共通するのはオーディオ的視点からみると『音が悪い』という事だな。
 悪いというと語弊があるが、全体的にフラットで『素っ気ない』のだ。でもこの『素っ気ない』というのが実に重要で、要するに味付けが無いから粗が良く見えたりするワケだ。粗が良く見えると音作りがしやすい。

 ハナシをこの 900STに限って言うと、ワタクシはコレの魅力は全然鳴らない『低音』にあると思っている。人間って基本的に重低音とか、やたら煌びやかな高音が大好きな生き物なので、巷にある多くのオーディオ用ヘッドフォンは結構『ドンシャリ』というか、下も上もかなり出る様に設計されている様に感じる。高音はヒトにとって凄く敏感なので、誰でも上が出てれば=良い音と直感的に感じてしまうし、逆に重低音はダンスというか『気持ち良さ』に直結するので、自分がリスナーとして聴く分には上も下も十分に伸びきったモノの方が聴いていて気持ちよい。

 しかし片や『音を作る』側の視点に立つとハナシは一気に変わって、高音が出過ぎるヘッドフォンだと、どんな音でもそこそこ良い音に聞こえてしまうのでミックスを詰められない(バランスがとり辛い)し、逆に重低音が出過ぎると音圧感はあるけど音程感が無くなってしまうので、ブーミーなだけで音程感や位相が全然分からなくなってしまうのだ。

 実はワタクシは、そもそもこのヘッドフォンが嫌いで仕方なかったのだが、ベースの収録で使ってから考え方が一変した。今じゃベースの収録はコレ以外は考えられない。他のヘッドフォンの方が聴いていて気持ち良いのでノれるが、ある程度音量を出してしまうと、音程感が濁るのだ。でもコレは低音域の解像度が高いのでキックとベースがしっかり分離してくれるし、結構な音量を出してもシッカリ音程感を感じる事ができる。

 ただ、個人的には歌の収録の時はあまり好きではない。自分はイツモ AudioTechnicaの木製ハウジングのモノを自分で持って行く。勿論声質にも寄るとは思うが、ワタクシの声の場合、ある程度低域が出てくれないと自分でピッチが不安になる…という変な癖があるからだ。900STは他人のヴォーカルをモニターする時は丁度良いが、自分で歌う声を自分でモニタする場合だと、鼻から抜ける音?っていうのかな。真ん中よりチョット下辺りが返ってる方がより自然に歌える気がする。密閉型だと丁度耳栓をしてる状態なので、普段の自分の頭の中で鳴ってる声質と実際に耳から返って来る声質が違うので歌いにくいのだ。

 それと、あと良い機会なので書いておこうと思うのだが、レコーディングの時はモニターヘッドフォンの音量に注意である。私だけかもしれないが、音量を上げすぎるとピッチが若干高く聴こえる錯覚に陥るのだ。音量を上げた方がノリは良くなるが、後でプレイバックすると、往々にして音痴だったりする。なので皆さんも音量だけは注意した方が良い。

 さて、この MDR-CD900ST。色々書いて来たが最後に一番大事な事を。コレ、やっぱりミックスには向いていると思う。ヘッドフォンなので定位については敢えて語らないが、とにかく分解能というか分離が良く、一つ一つの楽器がシッカリ見えるので良い。慣れもあるとは思うが、まずコレに慣れて間違えは無いと思う。

 因みにかけ心地に関しては決して誉められる物ではない。側圧はそれ程強くは無いが、長時間使ってると耳を外から押し付けるので相当疲れる。でも軽いし、何より素直で素っ気ないのでオススメです!
 まーったく誉めてんだか貶してんだか!?(笑)