中国de音楽4

中国在住の日本人音楽家による、日々の日記です。

PA屋が考えそうな事

 木曜日、上海は快晴、気温は 12度。

 昨夜風邪気味だったので午後 7時半には寝てしまい、その後は何度起きたか思い出せないほど?何度もトイレに起きた。なぜかというとアフォみたいに水を飲んでるからであるw 中国では風邪を引くと「とにかく水(お湯)を飲め!」と言われていて、ウチの奥さんから毎回イヤという程聞かされてるので、それに従うクセが出来てしまったのだが、不思議なもので確かに水を多量に飲むと風邪の治りが早い気がするのだ(多分尿となって体内の不純物?が早めに出てしまうのだろう)

 そんな訳で多分 10回くらいは起きてトイレに行ってると思う。そして朝 8時くらいに最後に目覚めて熱を測ってみる。「調子悪かったら休もう!」と実は昨夜寝る前から休む気満々だったのだが、恐ろしいくらいの回復力?で、目覚めた瞬間から身体が軽いのでベッドに起き上がった瞬間に「こりゃ大丈夫だな」と確信したのは言うまでもない。ま、念のため測ってみたがご覧の通り平熱。
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 ホントは久々に『休む気満々』だったので完全に調子が狂ってしまったが、まぁノンビリと準備してフツーに出社。いやぁ…沢山寝た後は非常に気持ち良いわ。

 例によって午前中はデスクワークと部内研修の講師なんかしたら直ぐにお昼。食後に部屋に戻ったら、また新しいオモチャが届いていたので早速開封。
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 中身は今まで散々高島屋の現場等で使い慣れたグラフィックイコライザー dbx 231sである。takaさんの現場にコレを進言して日本から 2台買ってきて常設にしたのも実はワタクシだったりするのだ。PA屋にとって EQは命綱。卓やアンプの次に重要なアイテムである。
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 中国ではコレの偽物が非常に多く、なんと偽物は 300元(日本円で約5,000円)くらいで買えてしまうのだ。特に 231の Sなし無印モデル(黒パネルモデル)は 8割が偽物?と言っても良いくらいポピュラーに偽物が出回ってるので、買う時は注意が必要なのだよ。そもそも GEQなんて比較的安い機材なので偽物を買う意味が分からん。

 コレをタオバオで買う際も、販売店からわざわざメールが入り「今、231sは欠品してて、黒パネルの231なら在庫あるから直ぐに出せるけど?」と連絡があり、しかも「これはパネルの色が違うだけで中身は全部同じだよ」なんて言うもんだから、「いやいや違うから!ダイナミックレンジは108dBから110dBに上がってるし、S/N比だって90dBから95dBに良くなってる、他にも細かい部分色々違うよ!」と敢えて説明してみたら、「わかったわかった!代理店から入荷し次第送るよ。数日待ってくれる?」との返答。
 危ないアブナイ!ま、こんな感じだったので、ちゃんとモノを見て本物と確かめるまでは不安で仕方なかったのだが、届いてみたら、ちゃんと正規代理店の保証書もついていて、シリアル番号も合っていたので一安心。
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 この dbx 231sは昔からカナリ長い事ずーっと使っていたので、特性も S/Nも知り尽くしている。安いのにホント良い機材で耐久性もワタクシの折り紙付きw まぁアナログ機器なので 5年くらい使ってると幾つかのフェーダーに軽いガリは出だす物の、総じて良好で、高島屋で使ってる 2台も機能的には全く問題なく使えている。

 そんなワケで軽い動作チェックだけ行った後はラックに入れ込んで早速実践投入である。え?何に使うかって??? そりゃ先般購入した TANNOYの補正ですよw「え?スタジオで GEQ使う気なの?」「バカじゃないの?こいつ何も判ってない!」なんて声がアチコチから聞こえて来そうだが(笑)、モチロンちゃんと分かってますよ! レコーディングスタジオや音楽プロダクションの『制作』の現場でモニタに GEQ使うなんてフツー有り得ないよね? EQなんて位相がズレまくるので、最終段のモニタ前に挟むなんてフツーは有り得ない事なのは重々承知しておりますよ、もちろん。

 でもね、別にそんな『タブー視』する必要は無いとワタクシ思うのですよ。確かに厳密に言うと EQは細かい位相のズレを引き起こすよ! そりゃバンドパスでブーストした波形をオリジナル波形に組み合わせて出力する訳だからね。 でもさ、楽曲制作時に EQを使わないプロダクションは皆無な訳で、なんならマスタリングまで EQ使いまくってる訳じゃん? ライブ PAだって、100%EQを通った音を聞いてみんな喜んでるワケですよ。なので元 PA屋のワタクシは『細かい位相なんか気にせずにガンガン積極的に使おうよ!』という『EQ積極派』なのである。(そんな派閥があるのか知らんがw)

 デジタル EQならフーリエ変換に伴う色々な弊害(ナイキスト周波数付近の歪み)は有るけど、アナログ EQは基本的に IIRフィルター(Infinite Impulse Response filter)な訳で、要はミニマムフェーズ EQな訳さ。EQに伴う位相のズレよりも、突いたり削ったりした効果の方が大きすぎて、ごく限られた部分で切り取られた位相のズレなんてハッキリいって聴いて分かるヒトなんて居ないと思うよ。少なくともワタクシは分かりません(断言)

 もちろん、例えばマルチマイクで録った生ドラムの mixで、隣にあるマイクのカブりを気にせずにフロアタム等の低域を派手に EQすると隣のカブったミッドタムの音の位相がおかしくなる事は聴いて直ぐに分かるけど、LR 2mixになった音源を単純に再生するシチュエーションで、一部の周波数を EQで突いた際に生じる『位相ズレ』に気付く事はまずない。それよりも実際の EQブーストの効果の方がずっと大きいし、それによって得られる音色の変化の方がダイジなのは自明である。

 そんな訳で、ワタクシ、試しに自室スタジオのモニタの直前にグラフィックイコライザーを挟んで部屋鳴りを補正する事にした訳さ。実に PA屋っぽい発想でしょ?

 先般、測定用のマイクと REWソフトウェアで会社スタジオの全てのスピーカーの音響特性を測ったのは実はこの EQ導入に伴う伏線だったりするのだよ。実はいま TANNOYをセットしている位置が、仕事をする上ではベストポジションなのだが、ここだと部屋の角度的にどうしても低域が溜まってしまい、色々実験してみると、後ろの壁と横の壁からそれぞれ 1mくらい離さないとこの「出っ張り」が消えない事に気付いたのだ。しかし部屋のスペースと作業スペースを考えるとそんな場所には現実的にセッティングできないから、どうにか今ある位置で『補正』して使いたい…と常々感じていたワケさ。
 そりゃセッティングで解決できたらそれに越した事は無いのだが、みなそれぞれ『制約』の中で制作業務を行なってるワケで、その中で最大限の効果(成果)を出さなければならい。

 そこで考えついたのが『アナログ GEQによる補正』なんだなぁ。最初はデジタル EQやプラグインで対応しようかとも思ったのだが、そうすると全てのスピーカーに対して EQが掛かってしまうから、スピーカーを切り替える度に毎回一々 EQセッティングを切り替えなきゃイケナイわけさ。これじゃスイッチ一つで複数SPを切り替えて聴き比べ…的な事ができないじゃん? しかもシステム音声で軽く曲をかける時(ブラウザで YouTubeや bilibili等の音源を聞く時)には DAWなんか立ち上げてないから、そもそもプラグインが挟めないじゃん?…てな感じで色々制限が多すぎるのでプラグイン対応案は却下。その点アナログEQなら出力(スピーカーセレクター後のアウトプット)とモニタスピーカーの間に挟むだけで、全ての音源が『当該スピーカー専用の補正』を通って再生されるから他のスピーカーには全く影響しない。

 ワタクシにとっては『聴いて判らない様な細かい位相のズレ』を気にしてヘンテコな部屋鳴りを我慢して脳内補正するよりも、フツーの作業ポジションで全ての周波数が均等に鳴ってくれるメリットの方がずっと大きいので、EQを噛ます事に何の躊躇も無い。
 しかも TANNOY以外の GENELECや AVANTONEはダイレクト接続されてるので、mixの際はコレに切り替えて色々聴き比べつつ作って行けば良いだけだしね。イザとなれば EQマシンに BYPASSスイッチだって有るし、もし『バイパスしたって内部のオペアンプ経由するじゃん!』という様なスノッブなオーディオファンみたいなクライアントが居たなら、EQの裏側のXLRキャノンを引っこ抜いてオスメス接続しちゃえば良いだけで有る。(使うのはワタクシ自身なので、細かい事ガタガタうるさい人は放っておけば良い?…というハナシでも有るがw)

 斯く斯く然々、REWソフトウェアで左右別々に鳴らして何度もチェックしつつ、出力される波形を見ながら出っ張ってる部分を引っ込めて引っ込んでる部分を上げて時間をかけてセッティングしてようやく完成したのが下のカーブ。この部屋特有のカーブなので、他の部屋にスピーカーを持って行ったら全く違う値になると思うw
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 予想通り、100Hzくらいに大きな山があり、逆に言うと 80Hzが大きく凹んでいたので逆のカーブを描いている。1KHzより上は何もしなくてもホントに美しい直線を描いていたので、殆ど手をつけていない。20KHzが若干低かったので少し突いたくらいである。
 勿論、1/3octの 31バンドGEQなので『完全な真っ平』にする事は不可能だったが、細かい凸凹はありつつも、補正後の波形をREW上で遠目に見て、ほぼ横一直線に出力される様になったので大満足。実際に曲をかけてみたら、ほんと『一皮剥けた』様な感じで実に素直な良い音!こりゃミックスしやすいわ。最高である。

 ただ弊害としては、やはりアナログ素子なので左右で 100%完全に全く同じ値を作る事は事実上不可能なので、PANのセンター、つまり LR中心付近での『定位暴れ(滲み)』が若干発生する感は否めない…かな。 なるほど…色々実験してみて初めて分かる事も沢山有るね。
 特に TANNOYは定位が良いので、暴れると良く分かる(苦笑) 普通にステレオのソースをかけている分には殆んど全く気付かないが、モニタコントローラーを MONOにして再生すると低音楽器がある音程だけ、ほんの少しだけ滲む様に広がるので気付く(中高音は全く問題ない) つまりコレがイワユル『位相ズレ』による弊害なのだろう。レコーディングスタジオやマスタリングスタジオで GEQを挟まない所以だな。
 PA現場のライブ等では、基本的に左のスピーカーと右のスピーカーとの間が離れているため、純粋な『センター』という概念がほぼ無いから気にならない(そもそもラインアレイなんて複数のSPを連ねて使うのがフツーで、厳密に言うと位相ズレは各単体毎に常に山ほど発生しているしねw)が、いわゆる TDやマスタリング作業では楽器の定位はかなりシビアな問題なので、TDの時は切ろうと思う。(ま、基本的に複数のSPを使うので問題無いけどね)

 でもフツーに聴いてる分にはこんなに心地良いものは無い。曲を作る時もまた同じ。ざっくりミックスしても、これなら Compや EQはミスらないと思う。こりゃサイコーだぜw
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